可動性トレーニング(Mobility Training)
コアトレーニングと言うとどうしても、体幹筋トレーニングの方法論に論点がいきがちですが、今回はその準備段階の話をさせていただきます。
前回も触れましたが、腹筋群(特に腹横筋)は身体の中心にあり、動作に先立って収縮を起こし、脊柱を安定化させるため効率的な動きを行う中枢になります。スポーツ動作のほとんどが足で地面をとらえ、その床反力をコアに伝達して、上肢または下肢で力発揮をする事で起こっています。残念ながら、多くの人たちはコアに力がうまく伝達されてこないだけでなく、コアで制御した力を無駄なく、効率的に利用する事が出来ていません。その代表的な原因は腰椎骨盤帯の前後にある股関節と胸椎・胸郭の可動性(柔軟性)の不足が挙げられます。
Joint by Joint Approach(ジョイント・バイ・ジョイント・アプローチ)
ジョイント・バイ・ジョイント・アプローチはそれぞれの関節の主要な役割を、可動性(Mobility)と安定性(Stability)の2つに分類していき、身体はそれが交互に積み重なっているとする考え方で、ファンクショナルトレーニングを行う際の基本となっています。
本連載において、関係の深い「股関節」、「腰椎骨盤帯」、「胸椎・胸郭」に焦点を絞り紹介します(表1)。
前回も触れましたが、腹筋群(特に腹横筋)は身体の中心にあり、動作に先立って収縮を起こし、脊柱を安定化させるため効率的な動きを行う中枢になります。スポーツ動作のほとんどが足で地面をとらえ、その床反力をコアに伝達して、上肢または下肢で力発揮をする事で起こっています。残念ながら、多くの人たちはコアに力がうまく伝達されてこないだけでなく、コアで制御した力を無駄なく、効率的に利用する事が出来ていません。その代表的な原因は腰椎骨盤帯の前後にある股関節と胸椎・胸郭の可動性(柔軟性)の不足が挙げられます。
Joint by Joint Approach(ジョイント・バイ・ジョイント・アプローチ)
ジョイント・バイ・ジョイント・アプローチはそれぞれの関節の主要な役割を、可動性(Mobility)と安定性(Stability)の2つに分類していき、身体はそれが交互に積み重なっているとする考え方で、ファンクショナルトレーニングを行う際の基本となっています。
本連載において、関係の深い「股関節」、「腰椎骨盤帯」、「胸椎・胸郭」に焦点を絞り紹介します(表1)。
表1:ジョイント・バイ・ジョイント・アプローチによる関節の分類(文献1より改変)
コアトレーニングの中心となる腰椎骨盤帯は安定性を求められる関節(Stability Joint)に分類されます。5つの腰椎全体の水平面上の可動域(回旋可動域)は5度程度しかなく、それ以上の回旋は腰椎、特に椎間関節に大きな負荷をかけることになります。また、屈曲位で重たい物を持ち上げたりする動作は、筋・筋膜性腰痛の発症の好発姿勢であり、中間位(ニュートラル位)と比べ椎間板にかかる負荷は1.5~2.5倍になり椎間板ヘルニアとの関係も指摘されています。一方、過度な伸展動作も腰椎分離症の受傷機転であり、腰椎を過剰に動かす事は外傷・障害を引き起こす原因となってしまいます。
また、股関節や胸椎・胸郭、肩甲骨を動かす筋のほとんどが腰椎骨盤帯に起始があるか、その影響を強く受けます。腰椎骨盤帯の役割としては、股関節や胸椎・胸郭、肩甲骨を動かす筋に対してより安定した起始を提供する事であり、腰椎骨盤帯の安定性は他のすべての部位の正常な機能の基礎と言っても言い過ぎではありません。従って、どんな姿勢や動作においても中間位を維持する機能を身に付ける必要があり、そのエクササイズがコアスタビリティートレーニングです(詳細は次回紹介します)。
胸椎・胸郭は可動性をも求められる関節(Mobility Joint)に分類されます。伸展動作と回旋動作はその中でも重要となってきます。特に回旋動作は12個の胸椎全体で30度程度あります。これは体幹の回旋のほとんどが胸椎で行われている事を意味します。投球やバッティング、ゴルフのスイング、柔道の投げ技などほとんどのスポーツで体幹の回旋動作を必要とするため、この可動域が重要となります。ストレッチやモビライゼーションなどによって胸椎・胸郭の可動性の獲得はパフォーマンス向上だけでなく、腰部の外傷・障害の予防に非常に効果的です。胸椎・胸郭の可動性が不十分な場合、身体は腰椎の安定性を犠牲にして、腰椎で無理に回旋や伸展動作を行い、胸椎・胸郭の可動域を補います。ただでさえ、構造的に不安定な腰椎がさらに機能的にも不安定になり、力の伝達に支障をきたす事が容易に想像できるかと思います。このように、胸椎・胸郭の可動性は非常に重要です。
股関節も可動性をも求められる関節(Mobility Joint)に分類されます。胸椎・胸郭同様に屈曲・伸展動作と回旋動作が重要になってきます。股関節の屈曲は本来125度の可動域を有していますが、多くのスポーツ選手でハムストリングスに筋緊張が見られ、可動域に制限が見られます。伸展可動域においても同様で、腸腰筋群の筋緊張が見られ、本来あるべき10度の可動域がなく、代償動作として腰椎の伸展で補ってしまい、腰椎に負荷をかけてしまっている事が散見されます。回旋可動域も内旋・外旋それぞれ45度程度の可動域を有していますが、梨状筋の筋緊張など多くの者で可動域制限が見受けられます。股関節の回旋可動域の制限はグローインペイン症候群の好発原因となるだけでなく、ステップ動作など横方向への動きに影響を与え、パフォーマンスに悪影響を示します。
胸椎・胸郭の可動性トレーニング
胸椎の可動域が正常であるか、左右対称であるかをまず評価する必要があります。簡単な方法として、あぐらにて1m程度の棒を肩に担ぎ、骨盤を固定した状態で、胸椎を側屈させます。その際、左右に40度程度側屈しているか確認します。チェックするポイントとしては胸椎から腰椎にかけて均等に側屈しているかどうか確認しましょう。また、左右の可動性が同じかどうかも確認します。その後、腰椎骨盤帯を固定した状態にし、胸椎部を左右に回旋させ、回旋の可動性を評価します。正常ですと左右対称に35度程度胸椎のみで回旋させる事が出来ます。この際、腰椎部を固定できずに腰椎でも回旋動作を行ってしまっている場合のほとんどが胸椎の可動性に問題があります。また、左右非対称な場合も胸椎の可動性に問題があります。実際の動作から評価する場合はオーバーヘッドスクワットが有効です。
これから、具体的な胸椎・胸郭の可動性トレーニングを紹介していきます。
ストレッチポールなどを用いた可動性トレーニング
胸椎の可動域制限の原因の多くが脊柱起立筋の筋緊張です。その多くが左右非対称です。脊柱起立筋の筋緊張はストレッチポール、Posture Pro、テニスボールを2つくっつけた特性のストレッチ機材の上に寝転がり、筋緊張が見られる部位を集中的に圧迫する事で、循環改善、反射やトリガーポイントの改善が起き、筋が弛緩し胸椎の可動性が向上します。
スリング(TRXやフリースタイルトレーナーなど)を用いた可動性トレーニング
体幹部のストレッチのバリエーションは限られ、ストレッチしづらい部位でしたが、近年トレーニングツールとして普及してきたスリング(TRXやフリースタイルトレーナーなど)を使うと効果的に体幹筋のストレッチを行う事が出来ます。
また、股関節や胸椎・胸郭、肩甲骨を動かす筋のほとんどが腰椎骨盤帯に起始があるか、その影響を強く受けます。腰椎骨盤帯の役割としては、股関節や胸椎・胸郭、肩甲骨を動かす筋に対してより安定した起始を提供する事であり、腰椎骨盤帯の安定性は他のすべての部位の正常な機能の基礎と言っても言い過ぎではありません。従って、どんな姿勢や動作においても中間位を維持する機能を身に付ける必要があり、そのエクササイズがコアスタビリティートレーニングです(詳細は次回紹介します)。
胸椎・胸郭は可動性をも求められる関節(Mobility Joint)に分類されます。伸展動作と回旋動作はその中でも重要となってきます。特に回旋動作は12個の胸椎全体で30度程度あります。これは体幹の回旋のほとんどが胸椎で行われている事を意味します。投球やバッティング、ゴルフのスイング、柔道の投げ技などほとんどのスポーツで体幹の回旋動作を必要とするため、この可動域が重要となります。ストレッチやモビライゼーションなどによって胸椎・胸郭の可動性の獲得はパフォーマンス向上だけでなく、腰部の外傷・障害の予防に非常に効果的です。胸椎・胸郭の可動性が不十分な場合、身体は腰椎の安定性を犠牲にして、腰椎で無理に回旋や伸展動作を行い、胸椎・胸郭の可動域を補います。ただでさえ、構造的に不安定な腰椎がさらに機能的にも不安定になり、力の伝達に支障をきたす事が容易に想像できるかと思います。このように、胸椎・胸郭の可動性は非常に重要です。
股関節も可動性をも求められる関節(Mobility Joint)に分類されます。胸椎・胸郭同様に屈曲・伸展動作と回旋動作が重要になってきます。股関節の屈曲は本来125度の可動域を有していますが、多くのスポーツ選手でハムストリングスに筋緊張が見られ、可動域に制限が見られます。伸展可動域においても同様で、腸腰筋群の筋緊張が見られ、本来あるべき10度の可動域がなく、代償動作として腰椎の伸展で補ってしまい、腰椎に負荷をかけてしまっている事が散見されます。回旋可動域も内旋・外旋それぞれ45度程度の可動域を有していますが、梨状筋の筋緊張など多くの者で可動域制限が見受けられます。股関節の回旋可動域の制限はグローインペイン症候群の好発原因となるだけでなく、ステップ動作など横方向への動きに影響を与え、パフォーマンスに悪影響を示します。
胸椎・胸郭の可動性トレーニング
胸椎の可動域が正常であるか、左右対称であるかをまず評価する必要があります。簡単な方法として、あぐらにて1m程度の棒を肩に担ぎ、骨盤を固定した状態で、胸椎を側屈させます。その際、左右に40度程度側屈しているか確認します。チェックするポイントとしては胸椎から腰椎にかけて均等に側屈しているかどうか確認しましょう。また、左右の可動性が同じかどうかも確認します。その後、腰椎骨盤帯を固定した状態にし、胸椎部を左右に回旋させ、回旋の可動性を評価します。正常ですと左右対称に35度程度胸椎のみで回旋させる事が出来ます。この際、腰椎部を固定できずに腰椎でも回旋動作を行ってしまっている場合のほとんどが胸椎の可動性に問題があります。また、左右非対称な場合も胸椎の可動性に問題があります。実際の動作から評価する場合はオーバーヘッドスクワットが有効です。
これから、具体的な胸椎・胸郭の可動性トレーニングを紹介していきます。
ストレッチポールなどを用いた可動性トレーニング
胸椎の可動域制限の原因の多くが脊柱起立筋の筋緊張です。その多くが左右非対称です。脊柱起立筋の筋緊張はストレッチポール、Posture Pro、テニスボールを2つくっつけた特性のストレッチ機材の上に寝転がり、筋緊張が見られる部位を集中的に圧迫する事で、循環改善、反射やトリガーポイントの改善が起き、筋が弛緩し胸椎の可動性が向上します。
スリング(TRXやフリースタイルトレーナーなど)を用いた可動性トレーニング
体幹部のストレッチのバリエーションは限られ、ストレッチしづらい部位でしたが、近年トレーニングツールとして普及してきたスリング(TRXやフリースタイルトレーナーなど)を使うと効果的に体幹筋のストレッチを行う事が出来ます。
フロントアームライン(胸筋群と肩甲下筋のストレッチ)
両手でスリングを掴み、スリングを背に立ちます。肩を外転90度位にし、片足を大きく前方に踏み出し胸筋群にストレッチ感を感じながら、ランジの姿勢になります。その姿勢を30秒程度保持します。腰椎の過伸展に注意します。その後、肩関節を外転させ、120度位、150度位、完全伸展位でも同様に行います。
ラテラールアームライン(肋間筋、腹斜筋群、腸腰筋、大腿筋膜張筋のストレッチ)
両手でスリングを掴み、スリングに対して横向きに立ちます。スリングから外側の足(写真では左足)を後方に引いた状態で脇腹を広げるように体重をかけて、体側にある肋間筋、腹斜筋群、腸腰筋、大腿筋膜張筋を効果的にストレッチする事が出来ます。30秒程度保持します。
バックアームライン(背筋群(特に広背筋)のストレッチ)
両手でスリングを掴み、スリングの方を向いて立ちます。脊柱が中間位になるように少し体幹筋に力を入れた状態で臀部を下げると背筋群部全体がストレッチする事が出来ます。30秒程度保持し、その後膝を曲げていきストレッチする角度を変えると今度は広背筋などの上背部の筋をストレッチする事が出来ます。この姿勢も30秒程度保持し、その後腰椎骨盤帯は固定したままで、胸椎を回旋させると肩甲骨周囲筋を特にストレッチする事が出来ます。
股関節の可動性トレーニング
胸椎と同様に股関節も可動域が正常であるか、左右対称であるかまず評価する必要があります。屈曲・伸展・内外転・内外旋の6方向の可動域を確認します。明らかな可動域制限や左右非対称の場合は股関節の可動性に問題があります。また、股関節の場合は胸椎と異なり、荷重の有無で可動性が変わってきます。非荷重位での関節角度計によるチェックだけでは問題が明らかに出来ない場合もあり、オーバーヘッドスクワットなどの動作チェックや実際のランニングやステップ動作などを確認する事も重要になってきます。
これから、具体的な股関節の可動性トレーニングを紹介していきます。
胸椎と同様に股関節も可動域が正常であるか、左右対称であるかまず評価する必要があります。屈曲・伸展・内外転・内外旋の6方向の可動域を確認します。明らかな可動域制限や左右非対称の場合は股関節の可動性に問題があります。また、股関節の場合は胸椎と異なり、荷重の有無で可動性が変わってきます。非荷重位での関節角度計によるチェックだけでは問題が明らかに出来ない場合もあり、オーバーヘッドスクワットなどの動作チェックや実際のランニングやステップ動作などを確認する事も重要になってきます。
これから、具体的な股関節の可動性トレーニングを紹介していきます。
ドロップランジ
足を肩幅に開き、それから片足を斜め45度前方に踏み出します。つま先、骨盤、肩は正面を向けたまま、後方の脚の膝が前方のふくらはぎの後方を横切るように下方に沈み込みます。後方の脚の膝が地面につく手前まで下げましたら、上昇します。この動作を繰り返します。その際、股関節が屈曲および回旋しているのを感じながら15回程度行います。股関節の回旋の可動性に問題がある場合詰まり感や動き辛さを感じますが、継続して行う事で可動性が向上します(注:痛みが出た場合は中止してください)。
サイドランジ
足を肩幅から2~3足分広げ、股割りの姿勢になります。その姿勢で内転筋群にストレッチ感を感じながら、骨盤帯の高さを低いままに保ちながら交互に伸脚を行います。10~20往復程度行ってください。その際、腰椎骨盤帯をしっかり固定させ、体幹中間位でトレーニングを行う事もポイントになります。
足を肩幅に開き、それから片足を斜め45度前方に踏み出します。つま先、骨盤、肩は正面を向けたまま、後方の脚の膝が前方のふくらはぎの後方を横切るように下方に沈み込みます。後方の脚の膝が地面につく手前まで下げましたら、上昇します。この動作を繰り返します。その際、股関節が屈曲および回旋しているのを感じながら15回程度行います。股関節の回旋の可動性に問題がある場合詰まり感や動き辛さを感じますが、継続して行う事で可動性が向上します(注:痛みが出た場合は中止してください)。
サイドランジ
足を肩幅から2~3足分広げ、股割りの姿勢になります。その姿勢で内転筋群にストレッチ感を感じながら、骨盤帯の高さを低いままに保ちながら交互に伸脚を行います。10~20往復程度行ってください。その際、腰椎骨盤帯をしっかり固定させ、体幹中間位でトレーニングを行う事もポイントになります。
胸椎・胸郭および股関節両方の可動性向上エクササイズ
臀部や腸腰筋群のストレッチに胸椎の側屈と回旋をプラスした3Dストレッチを行う事で、胸椎・胸郭および股関節両方の可動性トレーニングになります(写真)。また、スパイダーマンストレッチに胸椎の回旋をプラスした、スパイダーマン&ウィンドミルストレッチなども胸椎・胸郭と股関節両方の可動性向上に効果的です。
臀部や腸腰筋群のストレッチに胸椎の側屈と回旋をプラスした3Dストレッチを行う事で、胸椎・胸郭および股関節両方の可動性トレーニングになります(写真)。また、スパイダーマンストレッチに胸椎の回旋をプラスした、スパイダーマン&ウィンドミルストレッチなども胸椎・胸郭と股関節両方の可動性向上に効果的です。
この内容はJATI Express Vol.28に掲載しております。
参考文献
1.Michael Boyle: Advanced in Functional Training. On Target Publication. 2010
2.Gray Cook: Movement; Functional Movement Screening, Assessment and Corrective Strategies. On Target Publication. 2010
3.石塚利光ほか監訳Gray Cook: アスレティックボディインバランス.ブックハウスHD. 2011
4.大岡茂:コンディショニング技術ガイド,コンディショニンググッズの活用.文光堂.臨床スポーツ医学.Vol.28(臨時増刊号),332-338.
参考文献
1.Michael Boyle: Advanced in Functional Training. On Target Publication. 2010
2.Gray Cook: Movement; Functional Movement Screening, Assessment and Corrective Strategies. On Target Publication. 2010
3.石塚利光ほか監訳Gray Cook: アスレティックボディインバランス.ブックハウスHD. 2011
4.大岡茂:コンディショニング技術ガイド,コンディショニンググッズの活用.文光堂.臨床スポーツ医学.Vol.28(臨時増刊号),332-338.