コアスタビリティートレーニング(基礎編:腹横筋をアクティベートする)
コアトレーニングの目的およびゴールは神経-筋コントロールを最適に行えるようになる事、腰椎の安定化(これはローカル筋の分節的安定化、グローバル筋とローカル筋の相互作用による体幹全体の安定化、腰椎骨盤帯の安定化です)、そして効率的な動きを実現するための体幹筋群の強化です。その基本として、正しく腰椎を安定化出来る事が非常に重要であり、体幹筋による腰椎安定化能力を向上させるトレーニングをコアスタビリティートレーニングと言います。コアスタビリティートレーニングはコアトレーニングの基本(ベース)であり、このトレーニングが正しく出来ないと難易度の高いコアトレーニングの実施、機能的な動作やパワー発揮、パフォーマンスの向上を行う事は出来ません。
ドローイン(Draw-in)とブレイシング(Bracing)
腰椎を安定させるための基本エクササイズの代表的なものとして、「ドローイン」と「ブレイシング」と呼ばれる2つのエクササイズがあります。どちらも腹部に力を入れ、腰椎を安定化させるエクササイズですが、これらの違いについて議論が絶えないので少し整理してみたいと思います。
ドローイン
・提唱者がオーストラリア人研究者Paul Hodgesを代表とするグループ。
・腹式呼吸を用いて下腹部を凹ませるエクササイズです。
・腹横筋を選択的に活動させることが目的のエクササイズ。
・ホローイング:Harrowingと呼ばれることもあります。
・腰痛患者および腰痛の既往歴のある人に腹横筋の筋収縮の遅延(フィードフォワード機能の低下)が起こる事に対する、改善エクササイズとして提唱されたエクササイズです。
ブレイシング
・提唱者がStuart McGillを代表とするバイオメカニクスを専門とする研究者たちのグループ。
・ドローインによる腹横筋に加えて、外腹斜筋、内腹斜筋を意識的に収縮させ、腹筋群全体を収縮させるエクササイズです。
・非常に薄く、発揮トルクの少ない腹横筋(ドローインによる腹横筋の収縮)だけでは腰椎骨盤値の安定性を得る事は出来ないという仮説から、提唱されたエクササイズです(文献1,2)。
何度も紹介していますが、腹横筋は他の筋に先立って収縮を起こし(上肢運動の0.03秒前、下肢運動の0.11秒前)、脊柱の安定性を高める事で、ヒトは四肢を動かす事が可能と言われています(文献3,4)。この事を腹横筋のフィードフォワード機能と言います。腰痛患者や腰痛の既往歴のある人の腹横筋のフィードフォワード機能が低下し、適切な腰椎骨盤帯の安定化が出来ないという報告があり、適切に働かない腹横筋は腰痛の原因、それに伴う不定愁訴の原因、代償動作の原因となるため、ドローインはリハビリテーションの中で腰痛対策のエクササイズとして腹横筋の再学習の手段として多く用いられています。
しかし、幾つかの研究によると腰椎を安定させる目的においては、ドローインだけでは不十分でブレイシングの方が効果的であるとする報告もあります。これら点を踏まえると、「ドローインは腰痛などによって極端に腹横筋が弱化している場合やブレイシングの導入段階に実施すべきエクササイズ」、「ブレイシングはドローインによる腹横筋の収縮が意識的に正しく行える上で、コアスタビリティートレーニングの難易度を上げる準備や複雑なエクササイズの準備として実施すべきエクササイズ」と言えるかと思います。つまり、ドローインは基本であり、主にリハビリテーションで実施し、誰しもが出来なくてはいけない事。ブレイシングはパフォーマンス向上のベースとして身につけておくべき事と言えると思います。アスリートの場合、偏ったトレーニングや局所オーバーユースによって相反抑制により腹横筋を正しく使えていない場合も多く、まずはドローインエクササイズによる腹横筋の選択的収縮を正しく行えるかをチェックする必要があります。
ドローイン(Draw-in)とブレイシング(Bracing)
腰椎を安定させるための基本エクササイズの代表的なものとして、「ドローイン」と「ブレイシング」と呼ばれる2つのエクササイズがあります。どちらも腹部に力を入れ、腰椎を安定化させるエクササイズですが、これらの違いについて議論が絶えないので少し整理してみたいと思います。
ドローイン
・提唱者がオーストラリア人研究者Paul Hodgesを代表とするグループ。
・腹式呼吸を用いて下腹部を凹ませるエクササイズです。
・腹横筋を選択的に活動させることが目的のエクササイズ。
・ホローイング:Harrowingと呼ばれることもあります。
・腰痛患者および腰痛の既往歴のある人に腹横筋の筋収縮の遅延(フィードフォワード機能の低下)が起こる事に対する、改善エクササイズとして提唱されたエクササイズです。
ブレイシング
・提唱者がStuart McGillを代表とするバイオメカニクスを専門とする研究者たちのグループ。
・ドローインによる腹横筋に加えて、外腹斜筋、内腹斜筋を意識的に収縮させ、腹筋群全体を収縮させるエクササイズです。
・非常に薄く、発揮トルクの少ない腹横筋(ドローインによる腹横筋の収縮)だけでは腰椎骨盤値の安定性を得る事は出来ないという仮説から、提唱されたエクササイズです(文献1,2)。
何度も紹介していますが、腹横筋は他の筋に先立って収縮を起こし(上肢運動の0.03秒前、下肢運動の0.11秒前)、脊柱の安定性を高める事で、ヒトは四肢を動かす事が可能と言われています(文献3,4)。この事を腹横筋のフィードフォワード機能と言います。腰痛患者や腰痛の既往歴のある人の腹横筋のフィードフォワード機能が低下し、適切な腰椎骨盤帯の安定化が出来ないという報告があり、適切に働かない腹横筋は腰痛の原因、それに伴う不定愁訴の原因、代償動作の原因となるため、ドローインはリハビリテーションの中で腰痛対策のエクササイズとして腹横筋の再学習の手段として多く用いられています。
しかし、幾つかの研究によると腰椎を安定させる目的においては、ドローインだけでは不十分でブレイシングの方が効果的であるとする報告もあります。これら点を踏まえると、「ドローインは腰痛などによって極端に腹横筋が弱化している場合やブレイシングの導入段階に実施すべきエクササイズ」、「ブレイシングはドローインによる腹横筋の収縮が意識的に正しく行える上で、コアスタビリティートレーニングの難易度を上げる準備や複雑なエクササイズの準備として実施すべきエクササイズ」と言えるかと思います。つまり、ドローインは基本であり、主にリハビリテーションで実施し、誰しもが出来なくてはいけない事。ブレイシングはパフォーマンス向上のベースとして身につけておくべき事と言えると思います。アスリートの場合、偏ったトレーニングや局所オーバーユースによって相反抑制により腹横筋を正しく使えていない場合も多く、まずはドローインエクササイズによる腹横筋の選択的収縮を正しく行えるかをチェックする必要があります。
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図1:コアスタビリティートレーニングの段階的方法
正しいドローイン
腹横筋を意図的に収縮させるには腹式呼吸を用いて、腹部を引き込む事です。
その際、腹横筋が適切に収縮出来ているかどうか評価する方法として正確な方法は、超音波画像を見ながらドローインを行う事や筋電図を用いる事です。しかし、これらの装置は高価でトレーニング現場にある事は稀です。これらの装置がない状況で腹横筋の筋収縮を確認する方法としては、圧バイオフィードバック装置スタビライザーによる測定があります。
腹横筋を意図的に収縮させるには腹式呼吸を用いて、腹部を引き込む事です。
その際、腹横筋が適切に収縮出来ているかどうか評価する方法として正確な方法は、超音波画像を見ながらドローインを行う事や筋電図を用いる事です。しかし、これらの装置は高価でトレーニング現場にある事は稀です。これらの装置がない状況で腹横筋の筋収縮を確認する方法としては、圧バイオフィードバック装置スタビライザーによる測定があります。
圧バイオフィードバック装置スタビライザー(図2)
圧バイオフィードバック装置スタビライザーは空気の入る非弾力性パッド、パッド内の圧をモニターする目盛板、パッドを膨らませる加圧ポンプから構成される単純な装置です。この装置を身体の下にパッドを置き、パッドの圧変動によって腹横筋の活動による安定化作用を評価するものです。近年、圧バイオフィードバック装置スタビライザーを用いた体幹安定性の評価の方法としてSharmann Core Stability Testが多く行われています(文献5)。Sharmannはファンクショナルトレーニングを理論的に発展させた一人です。Sharmann Core Stability Testは膝を曲げた背臥位にて身体の下パッドを置き、ドローインを行った状態で下肢動かした際の圧変化を測定し、動作の難易度によって5段階の評価を行います。
図3:徒手による腹横筋の触診位置
徒手による評価
もう一つの方法は徒手で腹横筋の収縮を確認する事です。腹横筋は上前腸骨棘から内側に2横指、下側に2横指付近で触診する事が出来、正しくドローインが出来ている時に腹横筋の収縮を感じる事が出来ます。
もう一つの方法は徒手で腹横筋の収縮を確認する事です。腹横筋は上前腸骨棘から内側に2横指、下側に2横指付近で触診する事が出来、正しくドローインが出来ている時に腹横筋の収縮を感じる事が出来ます。
ドローインはまず、背臥位仰向けから練習を開始します。何故かと言うと、腹横筋の収縮方向に重力がかかり、腹横筋の収縮を手助けしてくれるためです。背臥位で適切なドローインを身に付けられたら、ヒトの発育発達の順番と同様に腹臥位、四つばい位、座位、立位の順番でドローインを正しく行えるように訓練を繰り返します。これらの方法を用いて、腹横筋が意図的に適切に収縮せる事、つまりドローインが正しく出来るようにする必要があります。感覚をつかむまで、非常に難しいですが、根気よくトレーニングする事が大切です。
ブレイシング
ドローイングが出来るようになったら、腹横筋だけでなく、外腹斜筋、内腹斜筋を意識的に収縮させ、腹筋群全体を収縮させます。ドローインが正しく出来れば、このトレーニングは簡単に出来るはずです。ドローインと同様に背臥位から始め、腹臥位、四つばい位、座位、立位の順番で正しくブレイシングが出来るように指導します。
ブレイシング
ドローイングが出来るようになったら、腹横筋だけでなく、外腹斜筋、内腹斜筋を意識的に収縮させ、腹筋群全体を収縮させます。ドローインが正しく出来れば、このトレーニングは簡単に出来るはずです。ドローインと同様に背臥位から始め、腹臥位、四つばい位、座位、立位の順番で正しくブレイシングが出来るように指導します。
基礎的なコアスタビリティートレーニング
筋による正しく腰椎の安定化(ドローインまたはブレイシング)が出来るようになったら、今度はその状態で下肢、上肢を協調および連動させて動かす事を身に付けさせます。
背臥位になりドローインまたはブレイシングを行った状態(コアアクティベーションした状態)で、片足ずつゆっくり、踵を浮かさずに臀部に近づけます。必ず、圧バイオフィードバック装置スタビライザーかパートナーの徒手で腹横筋が正しく収縮している事を確認しながら実施します。コアアクティベーションを維持したまま、15回程度レッグムーブ出来るようになりましょう。15回(左右合計30回)を1セットとして複数セット実施しましょう。
図4:コアアクティベーション with レッグムーブ
コアアクティベーション with レッグムーブが正しく出来るようになったら、難易度を上げます。次のレベルは、踵を浮かし歩いているように足を交互に曲げ伸ばします(コアアクティベーション with マーチング)。コアアクティベーション with レッグムーブ同様に、15回程度マーチング出来るようになりましょう。15回(左右合計30回)を1セットとして複数セット実施しましょう。
背臥位になりドローインまたはブレイシングを行った状態(コアアクティベーションした状態)で、片足ずつゆっくり、踵を浮かさずに臀部に近づけます。必ず、圧バイオフィードバック装置スタビライザーかパートナーの徒手で腹横筋が正しく収縮している事を確認しながら実施します。コアアクティベーションを維持したまま、15回程度レッグムーブ出来るようになりましょう。15回(左右合計30回)を1セットとして複数セット実施しましょう。
図4:コアアクティベーション with レッグムーブ
コアアクティベーション with レッグムーブが正しく出来るようになったら、難易度を上げます。次のレベルは、踵を浮かし歩いているように足を交互に曲げ伸ばします(コアアクティベーション with マーチング)。コアアクティベーション with レッグムーブ同様に、15回程度マーチング出来るようになりましょう。15回(左右合計30回)を1セットとして複数セット実施しましょう。
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コアアクティベーション with マーチングが正しく出来るようになったら、さらに難易度を上げます。次のレベルは、コアアクティベーションを維持したまま上肢と下肢を連動させることです(デッドバグ)。背臥位で両手両足を挙げコアアクティベーションを行い、右手と左足を地面に着くギリギリまで伸展します(図5:デッドバグ(対角)を参照)。その後、開始姿勢に戻り、反対側も行い、これを繰り返します。デッドバグは頭でイメージした動作を正しく身体をコントロールして、体現する協調性トレーニングの要素も含んでいます。15回程度(左右合計30回)を1セットとして複数セット実施しましょう。
図5:デッドバグ(対角)
デッドバグ(対角)が正確に出来るようになったら、デッドバグ(同側:右手右足挙上)を行います。同側挙上は筋膜の繋がりが少なく、対角より難易度が上がります。これら背臥位のトレーニングが出来るようになったら、四つばい位や腕立ての姿勢でも同様にコアアクティベーションと上肢と下肢の連動が出来るように指導し、最終的には立位で行います。
図5:デッドバグ(対角)
デッドバグ(対角)が正確に出来るようになったら、デッドバグ(同側:右手右足挙上)を行います。同側挙上は筋膜の繋がりが少なく、対角より難易度が上がります。これら背臥位のトレーニングが出来るようになったら、四つばい位や腕立ての姿勢でも同様にコアアクティベーションと上肢と下肢の連動が出来るように指導し、最終的には立位で行います。
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次に図6のように、箒の柄など長い棒を持ち身体を一直線にし、ドローインまたはブレイシング(コアアクティベーション)を行います。その状態から軸をブラさずに腿上げ動作を行います。その際、トレンデレンブルグ徴候やデュシャンニュ徴候などが起こっていないか、評価をします。(これら股関節周囲筋が正しく使えないようなら、それらの筋のトレーニングも実施します。)まずはゆっくり行い、正しく出来るようになったら難易度を上げリズミカルに行います。トレーニング処方としては15回(左右合計30回)を1セットとして複数セット実施しましょう。
図6:マーチング
このマーチングがランニング、スピードトレーニングの基礎トレーニングになります。ここまで正しく出来るようになって、筋による腰椎の安定化を身に付けた事になり、正しい姿勢(Perfect Posture)を獲得する事が出来ます。
この内容はJATI Express Vol.29に掲載しております。
参考文献
1. Stuart McGill. 吉沢英造(翻訳),才藤栄一(翻訳),大谷清(翻訳)腰痛-最新のエビデンスに基づく予防とリハビリテーション.NAP Limited
2. Grenier GS and McGill MS. Quantification of lumbar stability by using 2 different abdominal activation strategies. Arch. Phys. Med Rehabil. 88: 54-62, 2007
3. Hodges PW and Richardson CA: Contraction of the abdominal muscles associated with movement of the lower limb. Phys Ther 77: 132-144, 1997
4. Hodges PW and Richardson CA: Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain. A motor control evaluation of transversus abdominis. Spine. 22:2640-50, 1996
5. Faries MD et al. Core training: Stabilizing the confusion. Strength Cond. J.29:10-25, 2007.
図6:マーチング
このマーチングがランニング、スピードトレーニングの基礎トレーニングになります。ここまで正しく出来るようになって、筋による腰椎の安定化を身に付けた事になり、正しい姿勢(Perfect Posture)を獲得する事が出来ます。
この内容はJATI Express Vol.29に掲載しております。
参考文献
1. Stuart McGill. 吉沢英造(翻訳),才藤栄一(翻訳),大谷清(翻訳)腰痛-最新のエビデンスに基づく予防とリハビリテーション.NAP Limited
2. Grenier GS and McGill MS. Quantification of lumbar stability by using 2 different abdominal activation strategies. Arch. Phys. Med Rehabil. 88: 54-62, 2007
3. Hodges PW and Richardson CA: Contraction of the abdominal muscles associated with movement of the lower limb. Phys Ther 77: 132-144, 1997
4. Hodges PW and Richardson CA: Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain. A motor control evaluation of transversus abdominis. Spine. 22:2640-50, 1996
5. Faries MD et al. Core training: Stabilizing the confusion. Strength Cond. J.29:10-25, 2007.