コアトレーニング総論
スポーツ動作において四肢は作用点として動作や機能が求められますが、四肢が正しく機能的に動くためには、その支点となる体幹部の役割を無視する事は出来ません。つまり、近年注目されているコアトレーニング(体幹筋トレーニング)は、スポーツ動作の基礎トレーニングであり、パフォーマンス向上や外傷・障害の予防に必要不可欠なトレーニングです。
1.はじめに
コアとは、「脊椎(脊柱)をサポートする筋、及び脊椎骨と接する関節(特に肩甲帯と骨盤帯)に関与する筋の総称」と本項では定義して話を進めていきます。
2.体幹の構造
2-1.安定化機構
1.はじめに
コアとは、「脊椎(脊柱)をサポートする筋、及び脊椎骨と接する関節(特に肩甲帯と骨盤帯)に関与する筋の総称」と本項では定義して話を進めていきます。
2.体幹の構造
2-1.安定化機構
脊柱は仙骨の上に24個の椎骨が関節を介して連なる非常に不安定な構造体です。脊柱の安定性は「機械的安定性」と「機能的安定性」の2種類です。機械的安定性を生み出している組織は、骨、椎間板や靭帯ありで、これらによって構造的な安定性がもたらされています。一方、機能的安定性は可動域の中間局面においては骨や靭帯によって機械的安定性は機能しておらず、軽微な外力によって椎間に生じる力学的領域(Panjabiによって「ニュートラルゾーン」と名付けられた)で脊柱の安定性を担うのが脊椎周囲筋群であり、またその筋群を統制するのが神経組織です(Panjabi 1992)。このニュートラルゾーンで(機能的)安定性を生み出すのが体幹筋群です(図1:体幹の安定化システムとニュートラルゾーン (筆者改変))。
体幹筋群には椎骨に直接付着している腹横筋や多裂筋を代表とするローカル筋(通称:コアマッスル)と胸郭と骨盤を連結するグローバル筋に大別する事が出来ます。体幹の安定性にはローカル筋とグローバル筋の相互作用が重要ですが、特にローカル筋は直接椎骨に作用して、各椎体間の分節的な安定性を得るために重要であると考えられています(図2:体幹筋群による安定性(筆者改変)。その原理としては、体幹筋群が正しく収縮する事で、上下を横隔膜と骨盤底筋群に挟まれた腹腔内圧の増加や腰胸筋膜の緊張の増加することから、ローカル筋の選択的収縮の重要性が叫ばれています。Bergmarkによって分類された詳細なローカル筋とグローバル筋は表の通りです。
体幹安定性にはこれらの体幹筋群が適切に働くことが求められています。そのため、様々な状況下で体幹を安定させるための適切な筋収縮を起こす神経-筋機能の向上が必要となります。そのトレーニングの例が様々な姿勢で行うスタビリティートレーニングやファンクショナルトレーニングです。
2-2.脊柱の可動域
脊柱は椎体と椎間板の高さの比によって屈曲、伸展や側屈の可動域が決まり、椎間関節の角度によって回旋の可動域が決まります。
スポーツ動作で体幹の回旋動作は非常に重要であり、バッティングやゴルフのスイングなど多くの競技の主動作です。脊柱の可動域を見ていくと、腰椎椎間関節の関節面は矢状面で向き合っているため、1つの腰椎においては2度程度しか回旋可動域を有しておらず、腰椎全体でも5~15度程度しか回旋角度がなく、体幹をほとんど回旋しない事がわかります。従って、スポーツ動作における体幹の回旋は構造的に不安定な腰椎部で起こっているのではありません。
一方、胸椎の各椎間は、それぞれ8度程度の回旋可動域を有しており、胸椎全体で30~35度回旋角度があり、体幹の回旋がほとんど胸椎で起こっていることがわかります。胸椎と肋骨は第10肋骨までは骨性に連続した胸郭を形成しており、構造的に非常に安定しています。そのため、肋骨間の挙動も胸椎の可動性に大きな影響を及ぼしています。
残念ながら、胸椎での回旋可動域の不足に伴う腰椎での代償運動が見られ、腰痛の原因や肩周囲の傷害の原因になっている事が散見されており、胸椎の可動性(Mobility)がスポーツ動作において重要です。従って、コアトレーニングの開始の前もしくは開始と並行して、胸椎の可動性向上トレーニングを実施すべきです。
2-3.股関節の可動性
股関節は球関節で非常に大きな可動域を有していますが、腸腰筋群、ハムストリングス、内転筋群や回旋筋群の筋緊張によって可動域が制限されている事が多くみられます。股関節は地面から得られた反力を体幹部に伝え、それを動作に変換する中継地点であり、不十分な可動域は代償動作および運動連鎖の破綻を生み、パフォーマンスの低下や外傷・障害の原因となってしまいます。従って、体幹筋トレーニングの開始の前もしくは開始と並行して、股関節の可動性向上トレーニングを実施すべきです。
2-2.脊柱の可動域
脊柱は椎体と椎間板の高さの比によって屈曲、伸展や側屈の可動域が決まり、椎間関節の角度によって回旋の可動域が決まります。
スポーツ動作で体幹の回旋動作は非常に重要であり、バッティングやゴルフのスイングなど多くの競技の主動作です。脊柱の可動域を見ていくと、腰椎椎間関節の関節面は矢状面で向き合っているため、1つの腰椎においては2度程度しか回旋可動域を有しておらず、腰椎全体でも5~15度程度しか回旋角度がなく、体幹をほとんど回旋しない事がわかります。従って、スポーツ動作における体幹の回旋は構造的に不安定な腰椎部で起こっているのではありません。
一方、胸椎の各椎間は、それぞれ8度程度の回旋可動域を有しており、胸椎全体で30~35度回旋角度があり、体幹の回旋がほとんど胸椎で起こっていることがわかります。胸椎と肋骨は第10肋骨までは骨性に連続した胸郭を形成しており、構造的に非常に安定しています。そのため、肋骨間の挙動も胸椎の可動性に大きな影響を及ぼしています。
残念ながら、胸椎での回旋可動域の不足に伴う腰椎での代償運動が見られ、腰痛の原因や肩周囲の傷害の原因になっている事が散見されており、胸椎の可動性(Mobility)がスポーツ動作において重要です。従って、コアトレーニングの開始の前もしくは開始と並行して、胸椎の可動性向上トレーニングを実施すべきです。
2-3.股関節の可動性
股関節は球関節で非常に大きな可動域を有していますが、腸腰筋群、ハムストリングス、内転筋群や回旋筋群の筋緊張によって可動域が制限されている事が多くみられます。股関節は地面から得られた反力を体幹部に伝え、それを動作に変換する中継地点であり、不十分な可動域は代償動作および運動連鎖の破綻を生み、パフォーマンスの低下や外傷・障害の原因となってしまいます。従って、体幹筋トレーニングの開始の前もしくは開始と並行して、股関節の可動性向上トレーニングを実施すべきです。
このように人体において、可動性が求められる関節と安定性が求められる関節が交互に存在します。このことを「Joint by Joint Approach」と言い、アメリカでファンクショナルトレーニングを広めたGrey CookやMike Boyleらによって提唱されています。安定性(Stability)が求められる関節が支点となり、可動性(Mobility)が求められる関節が作用点となる事で身体の各セグメントはスムーズに動かす事が可能になります。
このようにただ体幹筋群を鍛えて腰椎を安定化するだけではなく、体幹筋群をパフォーマンス向上に活かすためにはその前段階の準備として股関節と胸椎の可動性のトレーニングが必要です(図3:体幹筋トレーニングにおける可動性と安定性(Joint by Joint Approach))。
このようにただ体幹筋群を鍛えて腰椎を安定化するだけではなく、体幹筋群をパフォーマンス向上に活かすためにはその前段階の準備として股関節と胸椎の可動性のトレーニングが必要です(図3:体幹筋トレーニングにおける可動性と安定性(Joint by Joint Approach))。
3.アスリートがコア(体幹)を鍛えないといけない理由
アスリートがコアを鍛えなければならない理由が先行研究よりいくつか明確になっています。
1つ目として、コア(特に腰椎骨盤帯(Lumbo-Pelvic Region))はすべての動作の源と考えられています。腹横筋は他の筋に先立って収縮を起こし(上肢運動の0.03秒前、下肢運動の0.11秒前)、脊柱の安定性を高める事で、ヒトは四肢を動かす事が可能と言われています(Hodges PW et al 1996,1997)。従って、ヒトの動作の直前に腹横筋が収縮して腰椎の剛性を高める事で、動作を可能にしていると考えられています。
2つ目の理由として、体幹の安定性機能が高いと下肢の外傷・障害が減るという事がいくつかの先行研究によって明らかになっており(Darin T. Leetun et al 2004, John D Willson et al 2005)、外傷・障害予防の観点からも体幹筋トレーニングの重要性は明らかです。
3つ目としては、体幹筋機能とパフォーマンスの向上が関係している事が挙げられます。その例として、コアトレーニングを継続的に実施すると垂直跳び、アジリティー能力が向上します。また、垂直跳びの離地時の効率(地面反力)が向上する事が報告されています(Butcher et al 2007)。このように体幹筋トレーニングは実際のパフォーマンス向上に繋がる事が明らかになってきています。
4.コアの系統的トレーニング
コアトレーニングの目的およびゴールは神経-筋コントロールを最適に行えるようになる事、腰椎の安定化(これはローカル筋の分節的安定化であり、グローバル筋とローカル筋の相互作用による体幹全体の安定化であり、腰椎骨盤帯の安定化です。)、そして効率的な動きを実現するための体幹筋群の強化です。つまり、まず適切に神経-筋コントロールを行い、安定化出来るようにならなければいけません。神経系の適応は強度の高いエクササイズで起こるのはなく、正しい姿勢で正しい動作を行う事が重要です。加えて、バランストレーニングなどの固有受容器を刺激する事で起こります。従って、初期のコアトレーニングはドローイン(ホローイング動作)など非常に地味なものです。しかし、建築物と同じようにヒトの身体においても、土台となる基礎が不十分であると上に積み上げる事は出来ません。ゆえに、脊柱の安定化を身につけないとその先の体幹筋群の筋力強化やスポーツ動作に即したパワー発揮のトレーニングに進めてはいけないのです。
5.まとめ
・胸椎と股関節は可動性(Mobility)が求められます(コアトレーニングの準備)
・腰椎は安定性(Stability)を求められます(コアトレーニングの基礎)
・コアはすべての動作の源であり、体幹筋機能が向上する事は下肢の外傷・障害の減少やパフォーマンス向上など、アスリートにとって非常に重要です。
・コアトレーニングは準備(可動性トレーニング)を含め、系統的に実施しなければなりません。
このたびは「コアトレーニング」について系統立てて紹介する機会を与えられて大変感謝しています。皆様の指導に少しでも役立つ情報であることを節に願っています。今後ともよろしくお願い致します。
この内容はJATI Express Vol.27に掲載しております。
参考文献
1.Panjabi M: The stabilizing system of the spine. Part I. Function, dysfunction,adaptation, and enhancement. J Spinal Disord Tech 1992; 5: 383-589
2.Bergmark A: Stability of the lumbar spine. A study in mechanical engineering. Acta Orthop Scand Suppl 1989;230: 1-54
3.Michael Boyle: Advanced in Functional Training. On Target Publication. 2010
4.Gray Cook: Movement; Functional Movement Screening, Assessment and Corrective Strategies. On Target Publication. 2010
5.石塚利光ほか監訳 Gray Cook: アスレティックボディインバランス.ブックハウスHD. 2011
6.Hodges PW and Richardson CA: Contraction of the abdominal muscles associated with movement of the lower limb. Phys Ther 77: 132–144, 1997
7.Hodges PW and Richardson CA: Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain. A motor control evaluation of transversus abdominis. Spine. 1996 Nov 15;21(22):2640-50.
8.National Academy of Sports Medicine: Essential of Sports Performance Training. Lippomcott Williams& Wikins.2009
9.Leetun DT, Ireland ML, Willson JD, Ballantyne BT, Davis IM: Core stability measures as risk factors for lower extremity injury in athletes. Med Sci Sports Exerc 2004; 36(6): 926-34.
10.Willson JD, Dougherty CP, Ireland ML, Davis M.: Core stability and its relationship to lower extremity function and injury. J Am Acad Orthop Surg. 2005 Sep;13(5):316-25.
11.Butcher SJ, Craven BR, Chilibeck, PD, Spink KS, Grona, SL, Sprigings EJ: Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 2007, Vol. 37 (5), p223
アスリートがコアを鍛えなければならない理由が先行研究よりいくつか明確になっています。
1つ目として、コア(特に腰椎骨盤帯(Lumbo-Pelvic Region))はすべての動作の源と考えられています。腹横筋は他の筋に先立って収縮を起こし(上肢運動の0.03秒前、下肢運動の0.11秒前)、脊柱の安定性を高める事で、ヒトは四肢を動かす事が可能と言われています(Hodges PW et al 1996,1997)。従って、ヒトの動作の直前に腹横筋が収縮して腰椎の剛性を高める事で、動作を可能にしていると考えられています。
2つ目の理由として、体幹の安定性機能が高いと下肢の外傷・障害が減るという事がいくつかの先行研究によって明らかになっており(Darin T. Leetun et al 2004, John D Willson et al 2005)、外傷・障害予防の観点からも体幹筋トレーニングの重要性は明らかです。
3つ目としては、体幹筋機能とパフォーマンスの向上が関係している事が挙げられます。その例として、コアトレーニングを継続的に実施すると垂直跳び、アジリティー能力が向上します。また、垂直跳びの離地時の効率(地面反力)が向上する事が報告されています(Butcher et al 2007)。このように体幹筋トレーニングは実際のパフォーマンス向上に繋がる事が明らかになってきています。
4.コアの系統的トレーニング
コアトレーニングの目的およびゴールは神経-筋コントロールを最適に行えるようになる事、腰椎の安定化(これはローカル筋の分節的安定化であり、グローバル筋とローカル筋の相互作用による体幹全体の安定化であり、腰椎骨盤帯の安定化です。)、そして効率的な動きを実現するための体幹筋群の強化です。つまり、まず適切に神経-筋コントロールを行い、安定化出来るようにならなければいけません。神経系の適応は強度の高いエクササイズで起こるのはなく、正しい姿勢で正しい動作を行う事が重要です。加えて、バランストレーニングなどの固有受容器を刺激する事で起こります。従って、初期のコアトレーニングはドローイン(ホローイング動作)など非常に地味なものです。しかし、建築物と同じようにヒトの身体においても、土台となる基礎が不十分であると上に積み上げる事は出来ません。ゆえに、脊柱の安定化を身につけないとその先の体幹筋群の筋力強化やスポーツ動作に即したパワー発揮のトレーニングに進めてはいけないのです。
5.まとめ
・胸椎と股関節は可動性(Mobility)が求められます(コアトレーニングの準備)
・腰椎は安定性(Stability)を求められます(コアトレーニングの基礎)
・コアはすべての動作の源であり、体幹筋機能が向上する事は下肢の外傷・障害の減少やパフォーマンス向上など、アスリートにとって非常に重要です。
・コアトレーニングは準備(可動性トレーニング)を含め、系統的に実施しなければなりません。
このたびは「コアトレーニング」について系統立てて紹介する機会を与えられて大変感謝しています。皆様の指導に少しでも役立つ情報であることを節に願っています。今後ともよろしくお願い致します。
この内容はJATI Express Vol.27に掲載しております。
参考文献
1.Panjabi M: The stabilizing system of the spine. Part I. Function, dysfunction,adaptation, and enhancement. J Spinal Disord Tech 1992; 5: 383-589
2.Bergmark A: Stability of the lumbar spine. A study in mechanical engineering. Acta Orthop Scand Suppl 1989;230: 1-54
3.Michael Boyle: Advanced in Functional Training. On Target Publication. 2010
4.Gray Cook: Movement; Functional Movement Screening, Assessment and Corrective Strategies. On Target Publication. 2010
5.石塚利光ほか監訳 Gray Cook: アスレティックボディインバランス.ブックハウスHD. 2011
6.Hodges PW and Richardson CA: Contraction of the abdominal muscles associated with movement of the lower limb. Phys Ther 77: 132–144, 1997
7.Hodges PW and Richardson CA: Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain. A motor control evaluation of transversus abdominis. Spine. 1996 Nov 15;21(22):2640-50.
8.National Academy of Sports Medicine: Essential of Sports Performance Training. Lippomcott Williams& Wikins.2009
9.Leetun DT, Ireland ML, Willson JD, Ballantyne BT, Davis IM: Core stability measures as risk factors for lower extremity injury in athletes. Med Sci Sports Exerc 2004; 36(6): 926-34.
10.Willson JD, Dougherty CP, Ireland ML, Davis M.: Core stability and its relationship to lower extremity function and injury. J Am Acad Orthop Surg. 2005 Sep;13(5):316-25.
11.Butcher SJ, Craven BR, Chilibeck, PD, Spink KS, Grona, SL, Sprigings EJ: Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 2007, Vol. 37 (5), p223